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山形地方裁判所 平成3年(わ)30号 判決

本籍

山形県鶴岡市本町二丁目二番地

住居

同市本町二丁目五番三四号

ホーム用品等販売業

武田英二

昭和六年三月一三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官政木道夫出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月および罰金五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、山形県鶴岡市本町二丁目五番三四号に居住し、同所ほか三か所(但し、一か所は昭和六三年七月から平成元年一〇月まで)において、「武田商店」の屋号でホーム用品等販売業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外したうえで経理担当者に虚偽の売上帳等を作成させたり、借名及び仮名預金として留保する等の方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和六二年分の実際総所得金額が二億八二九万五一五九円あったにもかかわらず、昭和六三年三月一五日、山形県鶴岡市泉町五番七〇号所在の所轄鶴岡税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が五七四二万七四一七円でこれに対する所得税額が二六四八万七五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億一三二五万七四〇〇円と右申告税額との差額八六七六万九九〇〇円を免れ

第二  昭和六三年分の実際総所得金額が一億六七二六万四〇〇円あったにもかかわらず、平成元年三月一五日、前記鶴岡税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が五〇七一万三一四円でこれに対する所得税額が二〇七〇万八五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額八三五七万四六〇〇円と右申告税額との差額六二八六万六一〇〇円を免れ

第三  平成元年分の実際総所得金額が一億五一七九万六六九三円あったにもかかわらず、平成二年三月一五日、前記鶴岡税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が四〇八五万六〇七二円でこれに対する所得税額が一五七六万二五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額六九六八万四二〇〇円と右申告税額との差額五三九二万一七〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  佐藤由美、五十嵐君子、武田圭一、武田良司、武田ひとみ、武田於満、武田英里、五十嵐芳郎の検察官に対する各供述調書

一  検察官浦野正幸作成の各捜査報告書

一  大蔵事務官作成の売上調査書、売上(雑収入等)調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、福利厚生費調査書(二通)、給料賃金調査書、利子割引料調査書、雑費調査書、貸倒引当金調査書、専従者給与調査書、青色申告控除額調査書、事業専従者控除額調査書、利子所得調査書、雑所得調査書、譲渡所得調査書、預貯金等調査書、有価証券調査書

一  鶴岡税務署長作成の所得税の青色申告の承認取消し通知書の謄本

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一の事実について

一  押収してある昭和六二年分の所得税の確定申告書一枚(平成三年押第一〇号の一)

判示第二の事実について

一  押収してある昭和六三年分の所得税の確定申告書一枚(平成三年押第一〇号の二)

判示第三の事実について

一  検察官政木道夫作成の捜査報告書

一  押収してある平成元年分の所得税の確定申告書一枚(平成三年押第一〇号の三)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、所定の懲役刑と罰金刑を併科し、情状により罰金刑につき同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月および罰金五〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、なお情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑)

本件は、売上除外並びに借名及び仮名預金の方法による所得税脱税の事案であるが、三年間の合計で逋脱税額が二億円を上まわり、逋脱率も約七六・四パーセントと高く、かつ被告人は昭和五六年ごろから売上除外を行っている旨供述していることから、かなり長期間にわたり同様の脱税を続けていたものであって、事業者の確定申告に対する国民の不信感、更には税負担の不公平感を一層助長せしめたものでありその責任は重大である。

しかしながら、被告人が、本件についての加算税延滞税合計二億四〇〇〇万円余を納付したほか、昭和六〇年、六一年分の修正申告をして合計三九三八万円余の加算税等を納付済であること、反省の色が濃く、既に相当な社会的非難も受けていること、二十数年前の罰金刑以外の前科がないことなどを特に考慮して、懲役刑の執行は猶予することとし、主文の量刑が相当と判断した(求刑懲役一年六月および罰金六〇〇〇万円)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 穴澤成巳 裁判官 卯木誠 裁判官 高橋光雄)

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